快適な企業 決算
「とりあえず、このままにしておこう。いずれは上がるだろうから」。
半ばあきらめの気持ちで放置しているのだろう。
しかし、本当に塩漬けにしたままでいいのだろうか。
本当にいずれは上がるのだろうか。
これから先、株の値段がもっと下がり、今の五分の一になってしまうとしたら…。
そして元の値段に回復するまで、この先二五年間もかかるとしたら……。
株などの金融資産を、塩漬けにしたままでいいのだろうか。
二○○八年の金融恐慌により、多くの個人投資家が傷ついた。
売るに売れず、多大な含み損を抱えたまま、持ち株や投資信託を塩漬けにしている人が今から八○年前の世界大恐慌のとき。
株価は一九二九年十月の「暗黒の木曜日」以降、三週間かけて二〜五%下落したが、実はその後、半年間かけて回復し、ほとんど元の水準まで戻している。
株価がよりいっそう悲惨な形でじりじりと下落を続けていくのは、翌年以降だ。
一九三○年から三一年までの間に、大恐慌はより深刻なものになっていった。
三年の月日をかけて、株価はついには九○%近く下落してしまう。
元のレベルに戻るのは一九五四年。
その間に世界は、総数六○○○万人もの死者を出したとされる第二次世界大戦を経験している。
一九二九年から数えると、戦争を挟んで、株価回復には二五年間もかかってしまった。
塩漬けなどせずに、さっさと売ってしまったほうがずっと良かったのだ。
もちろん、八○年前に起きたことと同じことがいま起きるとは限らない。
人類はより賢くなっているに違いないからだ。
ジョークをアメリカの友人が教えてくれた。
ニューヨークで流行っているそうだ。
「金融恐慌から身を守るために、できることは三つある。
まず、スポーツジムの会員になること。
次にC(会員制の倉庫型店舗)の会員になること。
次に、今のうちにローンを組んでクルマを手に入れること。
そうすれば最低限の生活はできる。
ジムでシャワーを毎日無料で利用できて、体が洗える。
Cの試供品で腹が満たせる。
家を失っても、自動車があれば寝ぐらになる。
金がなくても大丈夫さ」。
人間は「学習する動物」であるから、歴史に学んでいるはずだ。
しかし残念なことに、世界大恐慌のときと同じような光景が、今日の世界でも急速に広がり始めた。
人類が八○年前に見た、あの悲惨な光景が、今また再現され始めているのだ。
アメリカでは、ホームレスの収容施設が、郊外の新興住宅地の周辺に広がりつつある。
「テントシティー」と呼ばれるもので、そこには金網で囲まれた中にテントが立ち並んでいる。
域内の掲示板には、ボランティアが行なう炊き出しの予定表と、教会への集会参加を呼びかけるビラが貼られている。
東京では二○○八年の暮れ、日比谷公園に「年越し派遣村」が出現した。
ニュースを聞いて、年末ぎりぎりになって解雇された派遣労働者が飢えと寒さをしのぐため、ぞくぞくと集まってきた。
新年には公園内は約五○○人の派遣労働者で溢れ返り、用意されたテントには収まりきれずに、近くにある厚生労働省内のホールに収容された。
電車賃がなく、静岡から歩いてきた人もいたという。
日比谷公園「派遣村」の入村者数は、主催者の予想をはるかに超え、開村三日目でパンクした。
○九年三月までに八万五○○○人以上の非正規社員がクビを切られるという。
「テントシティー」も「派遣村」も、大恐慌のときのホームレスたちの光景とそっくり一九三○年代の大恐慌時、全米各地の公園や空き地には、職を失い、金を使いはたしたホームレスたちの小屋の集まりが次々とできていった。
一九二一○年六月、大不況のまっただ中で「不況は終わった」と言明して全国民の顰蹙を買ったFV大統領への皮肉をこめて、それらは「FV村」と呼ばれたという。
一九二一○年から二一三年までの四年間に、アメリカでは約九○○○の銀行が破綻した。
取りつけ騒ぎを恐れて銀行口座を解約し、わずかな現金を家で保管する人が急増したためだ。
大恐慌を立て直すべく、RV大統領は就任直後にラジオを通じて「マットレスの下のお金を銀行に預けてほしい」と訴えた。
このころ人々は、「カネはマットレスの下に隠せ」という合言葉しか信じられなくなっていたのだ。
日本でいう「ダンス預金」だ。
今でも同じことが起こっている。
金融商品で大火傷をした人々は現金しか信じられず、それを家の中に持って帰ろうとしている。
フランスやイギリスでは、家庭用金庫が記録的な売上を上げている。
経済の信用収縮が進み、金が世の中に回らなくなっているのだ。
ついこの間まで、キャッシュを大事に抱えている企業や個人は、意味のある投資に金を回すことができない無能力者としてバカにされていた。
だが、一○○年に一度といわれる金融危機で、投資に回した金はものの見事になくなってしまい、わずかに手元に残った現金のみに企業も家計もしがみつかもうとしている。
今や合言葉は「キャッシュこそ王様」に一転し、金融商品のみならず、株も銀行も信用できなくなってきている。
大恐慌時、アメリカのGDP(国内総生産)はピークから約五○%も落ち込んだ。
物価は二三%下落し、失業率は二五%に達した。
一九二九年に二一%だった失業率は、わずか四年後の三三年には二四・九%にまで跳ね上がったのだ。
そして株価は九分の一にまで下がってしまった。
今も似た状況が進行している。
アメリカの失業率は七・二%に達し、二○○八年一年間で、雇用者数は二五八万人減少した。
第二次世界大戦が終了した一九四五年以来の大幅な落ち込みだ。
日本の失業率も二○○八年二月の統計では三・九%だが、ITバブルが弾けた○一年と同じ水準の五%になるのは時間の問題、とされている。
日本の労働人口は六七○○万人なので五%の失業率となると三四○万人の失業者が町に溢れ出ることになる。
アメリカの経済は、二○○七年十二月の時点で後退(リセッション)に入ってからすでに一二カ月が経過したとされる。
これまで大恐慌以来、最大のリセッションとされたのが、一九七三年十一月からのものと、一九八一年七月からのものであるが、ともに一六カ月で止まっている。
アメリカはゼロ金利、日本も○・一%となった。
イギリスは一・五%まで下げたが、これはなんと、同国で政策金利の制度が始まった十七世紀以来、最低の水準である。
その間、産業革命があり、アヘン戦争があり、ボーア戦争があり、二度の世界大戦があった。
もちろん、世界大恐慌もあった。
十七世紀このかた何度かつけた政策金利の最低水準は二・○%を下回ったことはなかった、とされている。
世界大恐慌は再来するのか。
そうではなく、危機は近い将来終息に向かい、世界は安定をとり戻すのか。
RV大統領は、就任後の百日間で大恐慌への大胆な対策を次々と実行に移して、恐慌の進行に歯止めをかけようとした。
歴史は繰り返され、ふたたび地獄を見るのだろうか。
多くのエコノミストが、今回の景気後退はそれを上回るだろうと予測している。
そればかりか、この景気後退がいつやむか、まったく予測がつかないことに世界は脅えている。
なんとか景気を刺激しようと、各国の中央銀行は政策金利を加速度的に下げてきている。
それとも、大恐慌を克服した経験を、世界の指導者は、われわれ一般市民は、生かせるのだろうか。
少しばかり将来を展望する目を養う。
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